野球選手にとって、肩の痛みは投球パフォーマンスに大きく影響する問題です。特に、ボールを投げる瞬間に肩が痛む、以前より球速が落ちた、投球後に肩の奥が痛むといった症状には注意が必要です。

野球肩の原因はさまざまですが、その一つに腱板損傷があります。野球選手の腱板損傷は、加齢などによって生じる一般的な腱板損傷とは異なる特徴があり、インターナルインピンジメントと呼ばれる現象が関係することもあります。

この記事では、野球選手に起こる腱板損傷の特徴やインターナルインピンジメントの仕組み、肩の痛みを改善し、投球復帰を目指すために重要なポイントを解説します。

野球選手に起こる肩の痛み「野球肩」とは?

野球肩とは、投球動作によって生じる肩の痛みや機能障害の総称です。特定の病名ではなく、腱板損傷や関節唇損傷、インピンジメントなど、さまざまな障害が含まれます。

投球動作では、肩関節に大きな回旋力や牽引力が繰り返し加わります。そのため、肩関節を支える筋肉や腱、関節唇などに負担が蓄積し、痛みが生じることがあります。

野球肩の主な症状と特徴

野球肩では、次のような症状がみられます。

  • ボールを投げると肩が痛む
  • 腕を後ろに引いたときに肩の奥が痛む
  • 投球後に肩のだるさや違和感が残る
  • 球速が落ちたり、コントロールが安定しなくなったりする
  • 肩の可動域が狭くなる
  • 投球を続けると痛みが強くなる

特徴的なのは、日常生活では痛みがなくても、投球時だけ症状が現れる場合があることです。

そのため、腕を普通に上げられるからといって、肩に問題がないとは判断できません。

一般的な肩の痛みと野球選手の肩の痛みの違い

一般的な肩の痛みは、加齢による組織の変性、外傷、炎症などによって生じることがあります。腕を上げる、服を着替える、寝返りを打つといった日常動作で痛みが現れることも少なくありません。

一方、野球選手では、投球という特殊な動作によって肩に大きな負担がかかります。

特に、腕を後方に引いて肩を大きく外旋させる動作や、ボールを加速させる動作では、肩関節に強い力が加わります。

そのため、一般的な肩の検査だけでなく、投球動作に関連した肩の機能を確認することが重要になります。

野球選手に多い腱板損傷とは?

腱板とは、肩関節を取り囲む4つの筋肉と、その腱から構成される組織です。

腱板は、肩を動かすだけでなく、上腕骨頭を肩甲骨の関節窩に安定させる重要な役割を担っています。

野球選手では、投球時に肩関節を安定させるため、腱板に繰り返し大きな負担がかかります。

腱板の役割と投球動作でかかる負担

腱板は、次の4つの筋肉で構成されています。

  • 棘上筋
  • 棘下筋
  • 小円筋
  • 肩甲下筋

これらの筋肉は協調して働き、投球中の肩関節を安定させています。

特に投球後半の減速動作では、棘下筋や小円筋などが強く働き、腕の動きを制御します。

こうした負担が繰り返されることで、腱板に微細な損傷が生じる場合があります。

一般的な腱板損傷と野球選手の腱板損傷の違い

一般的な腱板損傷は、加齢に伴う腱の変性や転倒などの外傷によって起こることが多く、腱の断裂が進行すると日常生活でも痛みや筋力低下が現れることがあります。

一方、野球選手の腱板損傷では、投球動作による繰り返しの負担が関係します。

特に、棘上筋と棘下筋の関節面側に部分損傷が生じることがあり、インターナルインピンジメントとの関連が指摘されています。

また、画像検査で腱板に変化が確認されても、必ずしもその部分が痛みの原因とは限りません。

画像所見だけで判断せず、症状や身体機能、投球動作を総合的に評価する必要があります。

投球時に現れる腱板損傷の症状

野球選手の腱板損傷では、投球時の肩の痛みが代表的な症状です。

特に、腕を後ろに引いたときや、ボールを投げる瞬間に痛みが現れることがあります。

また、腱板の機能が低下すると、肩関節の安定性や投球動作に影響し、球速の低下やコントロールの乱れにつながる場合もあります。

ただし、これらの症状は関節唇損傷などでも生じるため、症状だけで腱板損傷と断定することはできません。

インターナルインピンジメントとは?

インターナルインピンジメントとは、肩関節を大きく外転・外旋した際に、腱板の関節面側と肩甲骨の関節窩後上方が接触する現象です。

野球選手では、投球動作の繰り返しによって、この接触部位に負担が集中することがあります。

なお、接触そのものは正常な肩でも起こり得ます。問題となるのは、繰り返しの負荷などによって痛みや組織損傷につながる場合です。

投球動作で腱板が挟み込まれる仕組み

投球動作では、ボールをリリースする前に腕を大きく後ろへ引き、肩関節を外旋させます。

この動作はレイトコッキング期と呼ばれます。

このとき、棘上筋や棘下筋の腱が、上腕骨の大結節と肩甲骨の関節窩後上方の間で接触します。

接触自体は生理的な現象ですが、投球を繰り返すことで負荷が蓄積すると、腱板や関節唇に損傷が生じる可能性があります。

インターナルインピンジメントと腱板損傷の関係

インターナルインピンジメントは、野球選手にみられる腱板の関節面側部分損傷と関連することがあります。

特に、棘上筋と棘下筋の境界付近に損傷がみられる場合があります。

また、肩関節の後上方に位置する関節唇にも負担が加わり、関節唇損傷を伴うことがあります。

ただし、腱板損傷のすべてがインターナルインピンジメントによって生じるわけではありません。

肩関節の可動域や肩甲骨の動きが与える影響

インターナルインピンジメントに関連する要因として、肩関節の可動域や肩甲骨の動きが挙げられます。

野球選手では、投球側の肩関節の内旋可動域が減少することがあります。

これは骨の形態的な適応による場合もありますが、肩関節後方の軟部組織の硬さなどが関係していることもあります。

また、肩甲骨の動きが適切に行われないと、投球時の肩関節への負担が変化する可能性があります。

そのため、肩の痛みを評価する際には、肩関節だけでなく肩甲骨の動きも確認する必要があります。

野球選手の腱板損傷はなぜ起こるのか?

野球選手の腱板損傷は、一つの原因だけで発生するとは限りません。

投球数や投球強度、肩関節の可動域、筋力、肩甲骨の機能、全身の動作など、複数の要因が関係します。

繰り返される投球動作による負担

投球動作では、肩関節に大きな負荷が加わります。

特に、投球数が多い場合や十分な休息が確保されていない場合には、組織の回復が追いつかず、障害のリスクが高まる可能性があります。

また、痛みがある状態で投球を続けることは、症状の悪化につながるおそれがあります。

肩関節の柔軟性や可動域の問題

肩関節の可動域は、投球動作に大きく関係します。

特に野球選手では、肩の内旋と外旋の可動域を左右で比較するだけでなく、両者を合わせた総回旋可動域を確認することが重要です。

投球側の内旋可動域が少ないことだけを異常と判断するのではなく、骨格の適応や軟部組織の状態なども考慮する必要があります。

肩甲骨・体幹・股関節の動きとの関係

投球動作は肩だけで行うものではありません。

下半身で生み出した力を、体幹、肩甲骨、肩関節、腕へと伝える全身運動です。

股関節や体幹の動きに問題があると、投球動作のバランスが崩れ、肩に加わる負担が変化する可能性があります。

そのため、肩の痛みがある場合でも、肩だけに注目するのではなく、全身の運動連鎖を評価することが大切です。

野球肩の再発を防ぐために大切なこと

野球肩の再発予防では、痛みが出ている部分への対応だけでなく、投球時に肩へ負担がかかる要因を確認することが大切です。

腱板の機能、肩関節の可動域、肩甲骨の動き、投球負荷などを総合的に考える必要があります。

痛みがなくなっても投球を再開してよいとは限らない

肩の痛みが消失しても、筋力や持久力、投球に必要な機能が十分に回復していない場合があります。

痛みがないことは復帰判断の重要な要素ですが、それだけで安全に投球できるとは限りません。

競技復帰では、身体機能の回復に加え、段階的な投球練習に対する反応を確認することが必要です。

肩だけでなく全身の動きを評価する重要性

野球選手の肩の痛みを考える際には、肩関節だけを評価しても、問題の全体像を把握できない場合があります。

投球動作には、股関節、体幹、肩甲骨、肩関節など、多くの部位が関係しています。

そのため、痛みのある部分だけでなく、身体全体がどのように動いているのかを確認することが重要です。

特に、腱板損傷やインターナルインピンジメントが疑われる場合には、組織の損傷状態と身体機能の両面から評価することが、適切な治療や競技復帰につながります。

投稿者プロフィール

奥田 剛
奥田 剛
帝京高校野球部で甲子園に3回出場し、高校日本代表、早稲田大学、社会人野球を経験。自身のケガをきっかけに柔道整復師となり、整形外科勤務では肩・肘を中心に多くの症例に携わる。現在は身体の使い方や動きまで確認し、再発しにくい身体づくりをサポートしている。